日本財団 図書館


 

疲労き裂伝播解析手法実用化とSR219

伏見彬*

 

SR219部会「き裂伝播解析手法の実用化に関する研究」は現在、最終年度の報告書をとりまとめたばかりの時期にあたる。本稿は、船体構造の疲労問題におけるき裂伝播解析の意義について述べるとともに、第219研究部会の研究概要を紹介する。

 

1.船体構造の破壊防止の現状
船体構造設計に求められる最も基本的要求は船体構造が破壊しないことであり、種々の破壊形態について研究が進められ、実際の設計の中での破壊防止のための対策がとられてきている。主な破壊形態として脆性破壊、崩壊・座屈、疲労破壊があげられる。20年肺と比較して最近の破壊の傾向の特徴的なことは脆性破壊および崩壊・座胴が激減していることである。脆性破壊および崩壊は事故となる危険性が高く、その減少は船舶「学の進歩を示す一つの例である。
脆性破壊は「潜在するき裂」がある長さに達すると、そのき裂が瞬時にして進展し大破壊を生じる現象である。最近では鋼材の進歩とそれを裏付ける破壊力学の発展により、実際の損傷としての脆性破壊は確実に防止されている。実船において「潜在するき裂」は疲労き裂が大部分と思われるが、脆性破壊にいたる損傷は、知られていない。昭和40年代に散見されたことを思えば、ここ20年で大きな進歩をとげた事柄である。潜在する疲労き裂が、現在でも発見され修理されているにもかかわらず、脆性破壊に到ってない事実はもっと注目されてよい事実である。SR219の調査では数mに及ぶき裂が点検時発見された複数例が報告されているが脆性破壊に到っていない。
崩壊・座屈も激減している。昭和40年代の大型船の建造中の水圧試験時に多く見られた崩壊。座屈損傷は、深水タンクの構造基準の世界的な見直しとしてフィードバックされた。高張力鋼が多用され、総じて板厚の薄くなった最近の船体構造において崩壊・座屈は激減している。その背景として、有限要素法による応力解析の実用化が進められ、設計における応力算定が容易になり、崩壊・座屈強度の適切なチェックが可能になったことがあげられる。
以上述べたように現代における脆性破壊および崩壊・座屈の防止は、現代の高張力鋼の使用,関連する破壊力学および有限要素法による応力解析の実用利用が成功の大きな鍵となっているのである。

 

2.疲労破壊防止の現状と関連研究
疲労破壊防止も、原理的には破壊力学の知見および有限要素法による応力解析は役位つ筈である。それにもかかわらず、脆性破壊、崩壊・座屈に比べ、疲労破壊は現在でも残念ながら散見される。疲労破壊防止対策については種々の議論がなされ、例えば、VLCCの船側縦通肋骨のき裂については、水線面直下の設計荷重不足として、対策はとられるようになってきている。
それに関連しさらに対策の一般化の研究が進められているのが現状である。一般的な対策のために膨大な荷重・応力解析(その手法の一つはSR216で提案された)を必要とし、さらに平行して、それらの実船における荷重・応力の検証が進められている(その一つはSR217の実船

 

*東京大学教授、前SR219部会代表幹事

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION